> 南三陸杉
南三陸の林業は、1604年に仙台藩祖:伊達政宗公が仙台城を築き広瀬川をはさむ城下町に大橋を架ける際に、南三陸に杉の大樹良材を求めたという故事が伝えられ、それ以降、仙台藩の良質な杉の産地として、植林が奨励されてきました。
現在では、国有林・公有林・私有林を合わせて12,654ヘクタールの、杉を中心とする森林が存在しています。
南三陸の杉の特徴として、山が岩盤質で栄養が少ない分、あまり太らず高く伸び、ゆっくり成長するために目が詰まり強度も高くなることが挙げられます。
南三陸町の山主有志からなる林業研究グループ「南三陸町山の会」で行った検査では、全国平均を上回る強度を確認されています。さらに、薄いピンク色の赤身が特徴で、美しい色みと強さを兼ね備えています。
こうした特徴を活かして、住宅の床・天井・柱などの建材のほか、家具やインテリアの素材として幅広い目的での活用が期待されます。
南三陸杉を製材している丸平木材㈱では、まず乾燥に際し「低温乾燥」という方法をとっています。これは広く行われている、短時間で木を乾燥させ材料に使う「高温乾燥」と相対立する考え方です。
効率だけを考えれば、高温乾燥のほうが早く木材を市場に出すことができ、有利ともいえます。しかし、木の内部に含まれる水分が沸騰するような高温では、木の有効成分までも殺してしまうことになるのです。専用の設備でゆっくりと時間をかけて乾燥することで、木のもつエネルギーをそのまま家づくりに引き継いでいくことができるのです。
また、もうひとつこだわっている製材のあり方が、「一棟挽き」というものです。基礎の上に敷きとおす「土台」から柱、梁という構造材、小屋組みをつくる屋根材、床板や天井板などの仕上げ材まで、家に使う材料すべてを同じ加工の技術や気合で作ることです。この「一棟挽き」にこだわることで、南三陸の森で育った1本1本の木の個性をいかしながら、その命を、杉を使って作られた家の中での暮らしにつなげていけるのです。
こういった良質材に対し、2008年から南三陸「山の会」を中心に、地域の森林組合や林業家の方々、工務店とも連携しながら「南三陸杉」と銘打ち、ブランド化を目指す動きが生まれました。
そして、2011年3月1日には、全国林業経営者コンクールで優勝し、南三陸「山の会」は農林水産大臣賞を受賞しています。まさに、これから「南三陸杉」ブランドを本格的に展開していこうという矢先、10日後の3月11日に東日本大震災が襲いました。伐採・製材・運搬など、産業としての南三陸杉を支える基盤は、壊滅的な被害を受けました。
それでも、杉の山は元気に残ったのです。今、震災から5年近くが経ち、町の復興が進む中、改めて「南三陸杉」のブランド力を構築していこうという動きが始まりました。地元林家と強い連携を持つ町内の製材所も被災から復活をとげ、さらに南三陸杉をメインに発信する工務店もあり、南三陸独自のトレーサビリティが整備されています。
今年2015年にはFSC(Forest Stewardship Council森林管理協議会:国際的第三者機関)の認証を申請、厳密な審査を経て、10月7日、取得が実現しました。
宮城県では初となる今回の認証取得の大きな特徴は、森林だけでなく、製材会社がCoC(サプライチェーン)の認証を同時に取得したことです。これにより、認証材を切り出すだけでなく、製品として消費者のもとへ届けることができる条件が整のいました。
今後さらに『南三陸杉デザイン塾』などの活動を通じて、南三陸杉の価値を力強く打ち出していく計画です。
「南三陸杉」の魅力を引き出すアドバイザーと共に木工商品の開発を行い、地域で職人をはじめとする雇用を生み出す製品づくりと流通づくりの基盤を構築します。衰退した南三陸町の物づくり文化の再生を林業から目指していきます。
一方で木材生産以外の山の活用も模索していきます。その一つの取組が、豊かなロケーションを活用したプログラムツアーの提供です。多くの方に南三陸の山に訪れていただき、山そのものの魅力や、南三陸の山と人のストーリーを、林業家目線で伝えていきます。